環境問題では、人間だけではなく動植物や海や山などの自然環境も破壊され、損傷されます。また、地域で暮らす人々のコミュニティも分断されます。気候変動などの大規模な環境問題は、各国の利害関係の垣根を越えて、諸外国が協力して取り組む必要があります。こうした問題では修復的正義が力を発揮することでしょう。また、環境問題における修復的正義では、アートの力にも注目が集まっています。それまでの地域にあった、動植物との豊かな関係や儀礼・文化を再び語り、故郷喪失の悲しみを表現するアートも、修復的正義の実践になり得ます。詩や絵画、歌やダンスなど、さまざまな実践の可能性があります。
私は、環境問題における修復的正義のフレームワークを構築するため、その基礎研究として水俣地域における環境活動の継時的研究を行なっています。1956年に水俣病患者が公式に確認され、1969年に始まった第一次訴訟を皮切りに水俣では激しい法廷闘争が展開されてきました。それと同時に、水俣地域にはアーティストや若者たちが住みはじめ、草の根の環境活動を開始しました。私は、これらの水俣病の運動史を再検討し、環境破壊後の地域コミュニティの〈分断〉と〈再構築の可能性〉を探究しています。